不健康そうな推しが健康だった話

2019年春、
滝沢歌舞伎を観劇すべく東京にやって来た私は、羽田空港から新橋演舞場へと向かう電車の中で先月出来たばかりのISLAND TVを眺めていた。

当時の私は無所(ジュニア)にあまり興味がなく、知っている人達以外に誰が出演するのか全く気にしていなかったので、事前情報は無いに等しかった。今から名前と顔の一致は無理でもさすがに確認はしておいた方が吉!と順番にプロフィールを見ていくが、同じ衣装を着ていることもあって区別がつかない。プロフィールを開けども開けども同じ顔に見える。やばい。
おじぃちゃんおばぁちゃんがよく言う“若い子みんな同じ顔に見える現象”ってこういうことか…と理解できた瞬間だった。

もう無理かもしれない…と諦めながら最後のプロフィールページを開く。
凛々しい眉にハッキリ二重!この人だけ見分けがつく!鼻筋もスっと綺麗で整った顔立ち、なんだけど、なんか…その…顔色悪くない?
今見返すとそこまで顔色悪い顔に見えないが、あの時の第一印象はえらい不健康そうな顔に見えて唯一記憶に残った人だった。
本物も顔色悪いのか確認したいな、見つけられるかな、と考えながら都内へと向かった。


久しぶりの推しと都会の華やかさで数時間前のことがすっぽり頭から抜けてしまい、幕間のトイレ列で不健康ボーイのことを思い出す。そうだ、健康チェックしなきゃならないんだった。

二幕が始まるも、何役でどんな衣装でセリフがあるのかないのか何もわからないので、双眼鏡で一人一人確認していく。
えっと、不健康ボーイは…これでもない…これも違う…この人は似てるけど…顔色良すぎるな…うーん…こっち側にもいない…ってことは…やっぱり…この人!?え!顔色めちゃくちゃいい!!!

顔色めちゃくちゃいいよ!!!!!!

わあ〜健康でよかった〜血色良好健康ボーイだった〜と、初めて人の顔色が良好で嬉しくなった。そんなことあるんだ。

顔色良好だと普通にカッコイイということが判明し、横原悠毅という名前だということもしっかり覚え、その日はホクホクで地元へと帰還した。


それからは動画が更新されると必ず見るようになり、おかしい人だと確信する。真顔でふざける人が好きなので最高だった。

同じ動画を何度も見たり、サインボールにボケを書いてるのが愛しく思えたり、たまにある顔色が悪い日にグッときたり、ドル誌に載れば1字1句漏らさず読んだり、少クラの出演を喜んだり、ファミクラで横原くんの写真だけ何枚も撮ったりしているのに、決して無所担ではないんですよという面構えでいた。こうやって文字に起こすと普通のファンなのに。推しと言うにはまだ早い気がしていた。

誰に咎められる訳でもないのに必死に線引きをしていた冬、決定的瞬間が訪れる。


2019年12月27日 Mステクリスマススペシャル。母と私は嵐ファンなのでその日も一緒に楽しく見ていた。

「えっ!?バック!!えっ!!」

珍しくバックにジュニアがつき、そこにはトラビスジャパンのみなさんがいた。

「ん!?え!!カゲ!!!」

無所と思わしき人たちも次々と登場し、その中にはカゲこと影山拓也の姿もあった。
ということは…もしや…

「…待って…いる…」

「横原くんかっこいい!!!!!!!!」

無意識のうちに口から出た「横原くん」「かっこいい」という言葉たち。
初めて耳にする名前に「誰…?」と隣で困惑する母。
隠れヨコハラタンしていた人間が世に放たれた瞬間であった。



そこからは横原悠毅が推しのオタクとして生活している。
クリエが決まり、毎日を浮かれ気分で過ごし、7人がクリエCと呼ばれるようになり、メンカラが決まり、メンカラの服を買い、ドル誌やテレビ誌に載り、コロナが流行り、クリエが中止になり、顔面蒼白になったのは私という最悪のオチがついてしまった。

いつか必ず7人のステージを見れる日を夢見て、今日もオタクは働く。